ブクブク…僕はなんでこんなところに来てしまったんだろう。
健太くん心配してるかな。
一緒にいろんなところに出掛けた。
駅まで行って、僕はそこでお留守番。バイトについて出かけた事もあったな。
雨に濡れてしまった時は、健太くんは僕をタオルでていねいに拭いてまたピカピカにしてくれた。
タイヤの空気が少なくなったら、いっぱいにしてくれて、そんで僕は、また張り切って走るぞ!と、元気になったんだ。
僕は、とても幸せだった。
あいつらが来るまで。
あいつらは、健太くんが付けてくれた僕のカギを、ガンガン叩いて壊してしまった。僕はこわくなって、叫びたかった。助けてくれーって。
そしてあいつらは、僕をさんざん乗り回して、邪魔になったからって、僕をここに捨てていったんだ。
ブクブク…この水の中へ。
こんなところ、来たくなかったよ。
健太くんが磨いてくれたピッカピカのシルバーは、緑のモシャモシャしたものに覆われてしまった。
僕は、もうどうでも良くなってた。
その時、ちっちゃな声が聞こえた。
「ここがいいわ」「ほんと、いいところだね」
時々ここを通って行く魚たちの話だと、それは、貝の夫婦だった。
「はあ、やっといいおうちを見つけた。」
「なんと立派な家なんだろう」
ちっちゃな貝たちは、僕にしがみつく。
なんてこった。かっこ良く走り回っていた僕が、貝たちの家になるなんて。
けれど、僕は不思議と嫌ではなかった。
健太くんと過ごした素晴らしい日々を思うと、少し悲しくもなるけれど、貝の家になるのも悪くはない。
僕はつぶやいた。健太くんありがとう。さようなら。
ちっちゃな貝たちには、これからよろしく、って。