鬼、なんて言葉は好きではない。
いつからか人は自分をそう呼んで、自分は自分の名前を忘れてしまった。
「優しい優しい鬼ですよ。お茶もお菓子もありますよ。」
そんな張り紙をしたこともあった。
バカバカしい。
ずっと使っている赤いポット。
このポットで茶を沸かすと、まろやかな優しい味がする。
たった一つの、喜びの時間。
自分は鬼などでは無い、が、そう呼びたければ呼べば良い。
自分だけは、そうでは無いと知っている。
最後に、自分の名を呼んだのは、誰だったか…。
今日、新しい張り紙を張った。
「寂しいです。誰かと話したいです。お茶を一緒に飲みませんか。」
信じてくれるだろうか?
鬼は寂しくなんかないと、誰がそう決めたのだろうか。
今日も、赤いポットで茶を沸かして、茶会を開く日を夢見ている。