居間にある2つの手編みのカバーがついたクッションは、ミノとキリの双子の兄妹がまだ小さいとき、今はもう亡くなったおばあさんがこしらえてくれたものでした。
2人はとても元気のいい子供たちでしたから、ある時はクッションに飛び乗り、またある時はぶんぶん投げたり、たたき合いのケンカをしたり。
クッション達は、すぐにボロボロになってしまうので、時々お母さんが修理をしてくれて、クッションは双子の成長と一緒に、ずっと居間にいました。
そんな日々をずっと過ごした、ある年の春、ミノとキリは、大きな荷物を持って旅立つことになりました。大きな街にある学校の寄宿舎に入るために、家を出る事になったのです。
クッション達は、やれやれと喜びました。
これでもう、ボロボロにならずに済むと。
それからとてもおだやかな日々が始まりました。お父さんとお母さんはクッションに飛び乗るようなことはしません。
時々犬のベルが、お昼寝する時にそっともたれかかる位で、クッション達は、平和な暮らしを心から楽しんでいました。
そこから初めての夏がやってきて、ある日居間に大きな声が響きました。
「ただいま!」「ああ、やっぱりおうちっていいわ!」
ミノとキリの双子は、夏休みをおうちで過ごすために帰って来たのでした。
2人はソファにどしんともたれ、クッションに寄りかかりました。
「ああ、ここが一番好き。」「僕もだ。」
ぎゅうぎゅうに押しつぶされながら、クッション達は自分たちにしか聞こえない声で話していました。
「やれやれ。困った子たちが帰って来たぞ。」「ほんとに」………
「それなのに、なんと今日はこんなにうれしいんだろう。」「こんなに心弾むんだろう。」
「なんと、あったかくて、良い香りがするんだろう。」
誰にも聞こえない声でしたが、クッション達は、まるで歌でも歌うみたいに声を合わせました。
「おかえり、おかえり!」